ADVISE

応募される方へのアドバイス

Ⅳ/ポートフォリオの作り方

デザイナーが就職活動を行う際には必ずポートフォリオを制作します。これはどのようなデザインの分野でも同じでしょう。展示会業界でももちろんポートフォリオはあった方が就職活動に役立ちます。ここでは、どんなポートフォリオをつくればいいのか、どのように考えどんな手順で作っていけばいいのかを記載しました。ポートフォリオは単なる自身の作品集ではなく、自身をプロモーションするための重要なプレゼンテーション資料です。そのことをしっかりと抑えておけばおのずとどのように作ればいいのかが見えてきます。新卒ではなく、転職活動をしている方は、これまでの仕事の中でどんなことを学んできたのか、今どんな能力を持っているのか、自分はどんなことが得意なのかを伝えるような資料にしましょう。これまでにも、仕事上でプレゼンテーションを行ってことは何度かあるのではないでしょうか。自分が自分自身をプレゼンするのであれば、自分はどんな資料をつくるのか、この機会にぜひ考えてみてください。


 1. 「目的」を確認する

ポートフォリオを作成する、という話を学生さんとする際、ほとんどの学生が誤解していることがあります。多くの学生はポートフォリオを自身の学生生活の集大成としての「作品集」として仕上げる、傾向が多く見受けられます。もちろん、「集大成としての作品集」は是非学生時代の総まとめとして制作した方がいいものですので、一度作っておくことをお勧めします。
しかし、一方で、就職活動に使用するポートフォリオの場合には意味合いが違ってきます。これから自社に雇い入れようとする「スタッフ候補」を面接しようとする際、企業側は何を知りたいのでしょうか。それは、その人の人柄であり、技術力であり、その人の将来の可能性となります。その人が自社に入って合うかどうか、それらを見決めたいと考えているはずです。そうするとポートフォリオが果たすべき役割は、「自身を正確に相手に伝える資料」となるはずです。新卒の場合にはまだ社会人としての実績がないため、自分がどんな人間で、これまでどんな経験をしてきたのかを伝えることが大切です。既に社会人経験があり、転職を検討している方の場合には、これまでどんな仕事をしてきて、自身に何ができるのか、どんな技術力を持っているのかを示す必要があります。
 

〇ポートフォリオは最初に行うプレゼンテーション

以上のような観点から、就職活動におけるポートフォリオは、皆さんがその企業に対して最初に行う「プレゼンテーション」と言えます。仕事では、先方に対してプレゼンテーションを行うタイミングが数多くあります。コンペのような畏まった場でのプレンテーションや、既に依頼をいただいた相手に対するデザイン案の提案まで、程度の差こそあれ、日頃の業務はプレゼンテーションの連続、と言っても過言ではありません。その観点から、就職面接時に相手の企業に自身をプレゼンテーションする、ということは、自身のプレゼンテーション能力を相手に伝える、という意味も持つのです。このことから、そのプレゼンテーションをサポートするポートフォリオという資料の存在は、プレゼンテーションの成否を分ける重要なツールとなるのです。
 

〇企業側はどこを見るのか

では、その「最初のプレゼンテーション」における最重要ツールであるポートフォリオのどこを企業側は見るのでしょうか。ほとんどの場合、企業側は皆さんのことをほとんど知らない状態でそのポートフォリオを受け取ります。そんな状況で、企業側が知りたいことは、この応募者がどんな能力を持っていて、どんな人柄なのか、といったことでしょう。つまり、ポートフォリオ(と同時にほとんどの場合、履歴書、職務経歴書)に書かれていること、見え方、全てからその「人」を探るようにします。それはつまり書かれている内容はもちろんのこと、そのレイアウト構成、グラフィックデザインの能力、文字組み、細かな部分へのこだわり、などを意味します。特に、図版や画像の配置が意図的ではなく、ただ雑然と揃っていない、歪んでいるといったように、細かな部分を雑に作っていると、実際に働き始めてもこのような雑な資料・図面をつくるのではないか、と判断されてしまいます。また、時々ポートフォリオに大量の作品を入れてくる人がいますが、数が多ければいい、というわけではありません。大事なことは「自身」を伝える、ということになりますので、その時点での自分の最大能力を入れた作品を入れることが大切です。
このような観点から考えると、ポートフォリオに入れるべき資料は、何も「作品」だけに限らない、ということに気が付く人もいるかもしれません。「自身を伝える」という意味では、何も過去に制作した仕事・作品の内容だけでなく、自身のこれまでの体験、自身の性格など、「これが自分です」と伝えるような資料であればどんなものでも入れても構わない、ということに気が付くことでしょう。
 

〇客観視が大切

以上から、企業側に響くポートフォリオを作り上げるためには、「自分目線」ではなく、「相手目線」になれるかどうかが大事、ということに気が付くかと思います。これはビジネス上でも重要なことで、特に展示会業界に限らず、デザインの世界、相手の目線(来場者目線)でデザインできるかどうかが、仕事を進めていく上ではとても大切なのです。ですので、徹底的に相手の目線になってポートフォリオを作り上げることができる、ということは、(面接を受けようとする)企業に対して「ビジネスを進める上での基本姿勢ができている」とアピールすることにもつながるのです。就職活動では、自分自身をいかに相手に伝えるかが大事なポイントですが、それ以前に相手の目線に立てているかが、何よりも重要なことなのです。
 


2.「構成」を考える

ポートフォリオを制作する目的が明確になったら、次はいよいよ制作に入っていきます。その際、いきなり各資料を作り始めてはいけません。まずは、どんなことを企業側に伝え、どのような順序で説明するのか、全体の構成を先に考える必要があります。ポートフォリオに限らずプレゼンテーションの資料は「紙芝居」のようなもの。本項では、構成を考える上でのポイントをいくつかお伝えいたします。
 

〇どんな自分を伝えるべきかを明確にする

まず、自分自身を徹底的に分析し、自身のどのようなところを伝えるべきかを考えるようにします。就職活動では、同じターゲットを狙っているライバルが数十人はいる、と常に考えるようにしましょう。そのような人たちと自分の差は何なのか、強みはどこなのか、自分は応募しようとしている企業に対して、どう役に立てるのか、それらを考えることが重要です。手身近のノートなどに思いつくまま書き出してみるとよいでしょう。書き出すことで、頭の中が整理しやすくなります。
 

〇正確に伝えるために「どんな資料があればいいか」を考える

何を伝えるべきかが決まったら、次はどんな資料があれば思いが正確に伝わるのかを考えます。それが過去に作成した図面かもしれませんし、自身の体験を新しく資料として作り出すものになるかもしれません。その際、企業に対して「どのように説明するか」を考えておくとどんな資料が必要か、考えやすくなります。実際のビジネスにおけるプレゼンテーション資料(例えばコンペにプレゼン時等)では、事前にどのように説明するかを考えてから、その説明に必要な資料作りをする、という順序をとると効果的な資料作りができます。ポートフォリオも同じで、実際に面接の場で、自分がこのポートフォリオというツールを使用してプレゼンを行う場合、どんなことをどのように話すだろうか、と話す言葉・文章を先に考え、その内容に合わせた構成を整える、という方法は理に適った構成方法となります。
 

〇どんな順序で説明すればいいのかを考える

構成を考えるポイントとして、そのポートフォリオを使用して、実際に「相手企業に説明できる時間」がどのくらいなのかも重要です。説明できる時間は、相手企業によって変わることでしょう。1分間かもしれませんし、1時間の時間を与えられるかもしれません。ですが、大抵の場合、それほど多くの時間は与えてはもらえません。できれば5分以内には話し終えるような構成を考えておくことが大切です。まず、3分から5分で最小限のことを伝えられるようにし、時間があればその後に追加で伝えたいことを資料の後ろに入れておくとよいでしょう。どんな時間を与えられても、説明ができるような構成にしておくことがポイントです。
 

〇絵コンテをつくる

ある程度の構成を組むことができたら、次は実際にそれぞれのページをどのような紙面デザインにするかを考えていきます。その際、絵コンテを作って考えると考えやすくなります。A4サイズの紙に長方形をたくさん描いてそれぞれのページの簡単なレイアウトを検討する、というものです。誰に見せるわけではないので、絵コンテは自分なりの方法で描けばよいでしょう。どのように説明していくか、どのようにページをめくればいいのかを考えながら、具体的なページ構成を検討していきます。
 
以上のようにポートフォリオの構成は、実際に説明するシーンを想定しながら、ページ構成を検討していくことが大切です。この段階でどれだけ詳細に考えることができたかで、最終的な出来映えが変わってきます。
 


3.「資料」をつくる

全体の構成と、各ページの大きな方向性が見えてきたら、いよいよそれぞれのページの作成に入ります。検討した構成案に沿って、各ページを順次制作していきます。ここでは、資料づくりに参考になる項目をいくつか書いておきましょう。
 

〇フォーマットを作成し統一感を出す

ポートフォリオ全体の印象をよくするためには、ある程度統一されたフォーマットやデザインのルールに則って各ページを制作していくことがお勧めです。1ページ1ページ、それぞれ単独で紙面レイアウトを考えると、全体として統一感のないバラバラな印象になってしまいます。ビジネスの企画書、特に空間デザイン系の提案時に作られる企画書においては、共通の図面枠や基本レイアウトフォーマットを作成して、紙面を構成していきます。この基本フォーマットは自身の「デザインセンス」「自分らしさ」をPRする大切なポイントです。是非自分らしいフォーマットを考えてみましょう。自分が好きな雑誌などのレイアウトを参考にするのもお勧めです。
 

〇1つ1つの資料を「作品」のように作り上げる

前項でも説明したように、企業側はポートフォリオを見て、応募者の技術力だけでなく「人柄」を見ています。そこで大切になるのが、ポートフォリオ1ページ1ページの完成度。デザイン案の場合、その発想力・技術力も当然見ますが、その「ページ自体」にどこまでこだわりを持って作っているか、雑な仕上がりになっていないかなど、そこから垣間見える人柄を探ります。決して華美にしなければいけない、とか、秀逸なデザインにしなければいけない、というわけではありません(デザインがよいに越したことはないのですが・・)。伝えるべきことを明確にして、1ページ1ページを作品のように、丁寧に作り上げていくことが大切なのです。
 


4.「完成度」を高める

検討した構成に沿って全てのページが完成したら、一度クリアファイルに入れて全体を見直してみましょう。その際、一度そのポートフォリオを持って実際に説明をしてみることをお勧めします。実際に説明をしてみると、伝えたいことがうまく話せなかったり、「この資料もあった方が」といった気づきが出てきます。そのようにして、スムーズな会話ができるような微調整をここでしておきましょう。
 

〇構成を見直す

実際に完成したポートフォリオを持って説明をしてみると、不自然な部分や足らない部分が出てきます。そのような時は思い切って、ページ構成を変えるか、新しくページを追加するなどして、スムーズに話せるようにしておきましょう。特に、必ず話しておきたいことや言葉などは、紙面のどこかに書き込んでおくと伝え忘れるということにならないため、お勧めしたい方法です。
 

〇雑なところはないかを確認する

全体を見つめ直し、ページの中で手を抜いてしまったところはないか、雑に感じるところはないかを確認します。できれば、ポートフォリオを企業側に見せた時に、「よくここまで描いたね!」と感心させることができたら、最高です。逆に、全体を見直した際にどこか力を感じない、特徴がない、言いたいことが伝わらないとなっていれば抜本的に構成を見直す必要があります。
 

〇「独りよがり」になっていないか

社会人経験の少ない学生にありがちなのが、ポートフォリオを自身の「作品集」や「自分史」になっているパターンです。そして、かなり手の込んだ「アート作品」として、自分自身を飾り付けて表現している、といったことも少なからずあります。自身を過剰に飾り付けて表現する、といったポートフォリオが必ずしも悪いというわけではありませんが、行き過ぎると「状況がよく読めていない、独りよがりな人」という判断をされてしまいますので注意が必要です。ポートフォリオは相手が感心するほど作りこむことが大事ですが、どの部分に力を入れるべきか、そこを見誤らないようにしましょう。
 


5.「見え方」を考える

資料一式が完成すると、それをクリアファイル等に入れることになります。「内容」も当然大事ですが、それと同じくらいそのポートフォリオ自体の「見た目」も重要です。出来上がった資料を企業に見せるとき、その資料自体の第一印象は皆さんの能力を示す最初の印象となるのです。そこで重要になるのが「クリアファイル」の選定の仕方。大きな文具店、画材屋等に行くと様々な種類のクリアファイル(クリアブック)が売っています。どんなに完成度高く資料を作成しても、安っぽい印象を与えるようなもの(クリアファイル)だと、資料の価値を下げて見せることになってしまいます。一方で、ハードカバーで高級感のあるクリアファイルに入れると、資料の見た目が格段と印象良く映ります。この観点から、どのようなクリアファイルに入れれば自身の資料が最大限引き立って見えるのか、そもそもどんなクリアファイルが世の中にはあるのか、調べた上で慎重に選定を行いましょう。ソフトカバー、ハードカバーなどの違いもありますが、サイズをA4サイズ(見開きA3)にするか、A3サイズ(見開きA2)にするかでも印象が全く変わります。面接する相手の企業に対して、どのように自分の資料を見せるのか、どのような自分を感じさせたいのかによって、戦略的にクリアファイルは選ぶ必要があります。
 


6.「練習」をする

ポートフォリオが完成したら、実際にそのポートフォリオを使用して説明をする練習をしてみましょう。時間は3分から5分程度。企業によっては、30分から1時間、それぞれのページについて深く説明をしてほしいとの要望があるかもしれませんが、大抵の場合、企業側は長時間聞きたいとは思っていません。学校における課題の講評会ではないので、就職の面接の場合、その人の人柄などが知れればいいわけです。ですので、全体をざっと説明した後、「詳しくは後ほどご覧ください」と言ってもいいですし、何か質問があるか聞いているのもいいでしょう。企業側は詳しく聞きたい箇所は、きっとその場で聞いてくるはずです。3分から5分間程度で、自身の伝えたいこと、PRしたいことを、ポートフォリオを用いて端的に伝える、それがポートフォリオの活用の仕方です。このような考え方は、実際のビジネスの現場でも同じです。例えば、デザインの提案を行うプレゼンテーションにおいて、説明する資料をどんなに作りこんでいても、実際に説明する場面で、大失敗すれば、伝わってほしいことの半分も伝わらない、ということも実際に多くあります。完成度の高いポートフォリオができたら、それと同じくらい話し方も練習するようにしましょう。
 


 
以上、ポートフォリオの作り方・考え方についてお伝えしました。全て読んでいただけたら気づかれたかもしれませんが、ポートフォリオづくりは、実際の仕事における企画書づくり、プレゼンテーション検討と同じとなります。つまり、ポートフォリオ作成にしっかりと向き合い、考えながら作っていく、という行為はそれ自体、ビジネススキルを上げるための勉強になるのです。ここでお伝えした、ポートフォリオの作り方を全て網羅することは難しいかもしれませんが、ここでお伝えしたニュアンスをくみ取りながら、自分が納得できるポートフォリオを作り上げてください。本気で向き合って制作したものであれば、その姿勢は必ず企業側にも伝わります。その姿勢こそ、実は一番企業が見たいところ、評価をしてくれるところでもある、という点も知っておいていただければと思います。